「何となく心身の健康がすぐれない…」日々の生活でそう感じている人は、幸せホルモンと呼ばれる、「セロトニン」の分泌が少ないのかもしれません。
セロトニンは気分や感情をコントロールし、リラックス効果をもたらしてくれます。
現代人の多くはセロトニンが不足していると言われていますが、実は断酒によって分泌量の改善が見込めることがわかってきました。
この記事では、断酒でセロトニンが増える理由とそれによって得られる効果、さらには効率のよいセロトニンバランスの整え方を解説します。
断酒で幸せホルモンのセロトニンが増える理由
ここでは、断酒するとなぜセロトニンが増えるのか、そのメカニズムについてお伝えします。
- アルコール分解時にナイアシンが使われるから
- アルコールは良質な睡眠を妨げるから
それぞれ見ていきましょう。
アルコール分解時にナイアシンが使われるから
肝臓がアルコールを分解する際、ビタミンB群の一種である「ナイアシン」が消費されます。
そしてナイアシンは、セロトニンの原料となるアミノ酸「トリプトファン」から合成されるもの。
- ナイアシン
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水溶性ビタミンであるビタミンB群の一種。ニコチン酸とニコチンアミド(ナイアシンアミド)の総称で、ビタミンB3とも呼ばれます。糖質やタンパク質、脂質のエネルギー代謝をスムーズに行い、DNAの修復や合成、アルコールの代謝などに関わるなど、体の機能を働かせるために重要な役割を担う栄養素です。
- トリプトファン
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人間の健康を維持するために欠かせない必須アミノ酸の一種。体内では生成できないため、食事から摂らなければいけません。幸せホルモンの「セロトニン」や睡眠を促す「メラトニン」の原料としても知られています。
酒を分解するためにナイアシンを使ってしまうと、セロトニンを生成する原料であるトリプトファンが不足します。
その結果「飲酒でセロトニンが減る」というわけですね。
断酒すれば、今までアルコール分解に消費されていた栄養素がセロトニン合成に使われるようになるため、脳内のセロトニン量増加につながります。
アルコールは良質な睡眠を妨げるから
「お酒を飲むと、寝つきがよくなる」これは多くの人が考えがちなことです。
確かに入眠までの時間は短くなるのですが、実際のところアルコールは良質な睡眠を妨げてしまうため、体が十分に休まりません。
アルコールが睡眠の質を下げる理由は、以下のようなものです。
- レム睡眠とノンレム睡眠のバランスが乱れる
- 夜中に何度も目が覚める「中途覚醒」を起こしやすい
- アルコールの筋弛緩作用によって舌根が落ち込んでしまい、いびきをかいたり無呼吸になったりする
また、飲酒によってセロトニンが減少することも、睡眠の質低下に関係しています。
セロトニンは夜になると睡眠を促すホルモン「メラトニン」へと変換されますが、セロトニンの分泌量が少なければメラトニンもうまく合成されません。
良質な睡眠が得られなければ、「日中の活動が低下→セロトニン分泌が減少→メラトニンが不足→不眠や睡眠の質低下」という、悪循環に陥ってしまうのです。
断酒はこの負のスパイラルを断ち切る契機になるため、体内のセロトニンバランスが整います。
早い人では1ヶ月程度で効果が実感できるとされているので、「なんだかうまく眠れない」という人はお酒をやめてみるのもよいかもしれません。
そもそもセロトニンとは
ここからは、そもそも「幸せホルモン」と呼ばれるセロトニンが、どのような性質を持っているのかについて解説します。
- セロトニンとメンタルヘルスの関係
- 幸せホルモンの種類
セロトニンをはじめ、幸せホルモンはメンタルのバランスに大きく影響しています。
1つずつ説明しますね。
セロトニンとメンタルヘルスの関係
セロトニンは、「幸せホルモン」としても知られる神経伝達物質の一種であり、私たちの心の健康を守るために大切な役割を果たすものです。
ドーパミンなどの他の神経伝達物質をコントロールして脳の興奮を静める働きをするので、「心身をリラックスさせる物質」と理解してもよいでしょう。
セロトニンが不足するとメンタルのバランスが崩れ、以下のような症状が出てくる場合があります。
- 気分が不安定になる
- 慢性的なストレスを感じる
- 攻撃的になる
- うつ症状が出る
- 不眠症になる
- 不安障害を発症する
実際にうつ病を発症している人は、脳内のセロトニン分泌が少ないことが多くの研究で明らかになっています。
セロトニンを増やす薬が抗うつ薬として、不安や意欲低下の治療に用いられることからも、メンタルバランスを整えるためのセロトニンの重要性がわかるでしょう。
健康的な生活習慣を送って適切にセロトニンを分泌することは、メンタルヘルスの維持や改善に不可欠です。
幸せホルモンの種類
セロトニンの他にも、「幸せホルモン」はいくつか存在します。
代表的なものを挙げてみましょう。
- ドーパミン:脳を覚醒させ、生産性の向上や達成感をもたらす
- エンドルフィン:痛みの軽減や抗ストレス作用に加え、幸福感を増大させる
- オキシトシン:不安を軽減し、共感や他者への信頼感、愛着を形成する
これらのホルモンはそれぞれが異なる役割を果たしながら、私たちの心身の健康に大きく影響しています。
そしてどれか1つだけが多ければよい、というものではないことに注意しましょう。
大切なのは、幸せホルモン全体のバランスです。それぞれがバランスよく分泌されれば、互いに影響し合ってメンタルヘルスにより効果的に働きます。
心身ともに健康な日常を送るために、これらの幸せホルモンを上手に利用していきたいものですね。
断酒で得られるメンタルや体への効果
この章では、断酒することでメンタルや体にどんなポジティブな効果が現れるのかを説明します。
- ストレスが軽減する
- 自己肯定感が上がる
- 睡眠の質が良くなる
- 脳の萎縮を防ぐ
- 病気のリスクを下げる
すでに知っているものに加えて、「こんなメリットがあったのか!」と驚くものもあるかもしれません。
それぞれ見ていきましょう。
ストレスが軽減する
よく「ストレス解消のために酒を飲む」という人がいますが、実はこれは誤りで、慢性的な飲酒習慣はストレスを増幅させてしまうのです。
確かにアルコールによって、一時的なストレスは和らぎます。
これは脳内で幸福感を高める「ドーパミン」が活性化するからに他なりません。
しかし長期的に見ると、アルコールは以下のようにストレスに対してネガティブに働きます。
- コルチゾール(ストレスホルモン)の分泌が増加する
- 自律神経のバランスを崩す
- 睡眠の質が悪くなり、ストレス耐性を低下させる
そこで断酒してみると上で述べたような悪影響がなくなるため、「ストレスが軽減された」と感じるのです。
効果が実感できるまでの断酒期間は人によりますが、数週間から1ヶ月経てばメンタルの変化が感じられるでしょう。
ストレス耐性が高まると集中力の向上や免疫機能の改善が見込めるため、あなたの生活の質もグッと上がるはずですよ。
自己肯定感が上がる
断酒を継続することで自己肯定感が高まるのは、以下のような理由が考えられます。
- 目標が達成されたことで満たされた気持ちになるから
- 健康的な生活習慣が確立できたから
- 自分自身をコントロールできていると実感できるから
断酒は単に体が健康的になるだけでなく、精神的な成長にもつながると言ってよいでしょう。
自己肯定感が高まれば仕事のパフォーマンスが上がったり、良好な人間関係が築けたりと、いいことづくめです。
より充実した人生を送るためのステップとして、「断酒で自己肯定感を高める」ことにチャレンジするのはいかがでしょうか?
睡眠の質が良くなる
断酒すれば睡眠の質が高まり、いつもよりもすっきりとした目覚めが期待できます。
アルコールが睡眠に与える悪影響は記事の冒頭ですでに解説しましたが、おさらいしてみましょう。
- レム睡眠とノンレム睡眠のバランスが乱れる
- 夜中に何度も目が覚める
- いびきをかいたり無呼吸になったりする
良質な睡眠が得られると、日中も活動的になり、ストレス耐性や免疫力も高まります。
また、睡眠が体と心の回復作用という大切な役割も担っていることも忘れてはいけませんね。
断酒で質の高い眠りを手に入れ、より健康的な生活を送ってみませんか?
脳の萎縮を防ぐ
アルコールは脳の細胞に直接的なダメージを与えるということが、さまざまな研究で明らかにされてきました
厚生労働省のデータによると、飲酒量が増えれば増えるほど脳萎縮のリスクは高まるということです。
また脳の萎縮以外にも、以下のことが動物実験などで証明されていると聞くと、なんだか恐ろしくなりませんか?
- 記憶力や学習力の低下を促進する
- 認知機能障害を引き起こす
- 平衡感覚などの運動機能を低下させる
ただし、断酒して脳に十分な栄養が行き渡るようにすれば、アルコールによる悪影響は改善される見込みがあるとのこと。
大切な脳を守るためにも、アルコールによってダメージを受ける事実に一度目を向けてみる必要がありそうです。
病気のリスクを下げる
断酒すれば、さまざまな疾患にかかるリスクが下がります。
アルコールは全身の臓器に対し、悪影響を及ぼす危険性があることを知っておきましょう。
アルコールが原因となる主な病気は以下の通りです。
- 肝臓疾患(脂肪肝、肝炎、肝硬変)
- 心血管系の疾患(高血圧、心筋症、不整脈)
- 膵臓疾患(膵炎、糖尿病)
- 一部のがん(食道がん、肝臓がん、膵臓がん、大腸がんなど)
上で挙げたような重大な疾患にかからなくても、過度のアルコール摂取はそもそも免疫力を低下させます。
そのため、健康な生活を送りたければ断酒または節酒するのが必須といえるでしょう。
断酒以外でセロトニンを増やす方法
ここからは、断酒以外のセロトニン分泌を促す方法をお伝えします。
- タンパク質を摂取する
- 朝に日光を浴びる
- 負荷の軽い運動を行う
お酒をやめることに加えて上記の方法を実践すれば、より効率的にセロトニンバランスが整えられるはずですよ!
タンパク質を摂取する
セロトニンは「トリプトファン」という必須アミノ酸から合成されます。
ただしトリプトファンは体内で生成できないため、良質なタンパク質を食事から摂らなければなりません。
中でもオススメは以下の食品です。
- 肉(鶏むね肉やささみなど)
- 魚(特に鮭やサバ、さんまなど)
- 卵・乳製品(チーズ、ヨーグルト)
- 大豆製品(豆腐、納豆)
- ナッツ類(アーモンド、クルミ、ピーナッツ)
- バナナ
動物性タンパク質からトリプトファンを摂る場合、炭水化物とビタミンB6を含む食材を一緒に食べると効果的です。
良質なタンパク質をメイン食材にして、栄養バランスの整った食事をゆっくり楽しみたいですね。
朝に日光を浴びる
朝に日光を浴びると、網膜が太陽光に反応してセロトニンの分泌が促されます。
また、朝に陽の光を浴びることは、単純にセロトニン量を増やすだけではありません。
以下の効果にも注目してみましょう。
- 体内時計を調整する
- メラトニン(睡眠ホルモン)の分泌リズムを改善する
- ビタミンDを生成する
体内時計やメラトニンバランスが整い、良質な睡眠が得られることはセロトニン分泌にもよい影響を与えます。
またビタミンDは健康な体を維持するために不可欠な栄養素ですが、体内で生成できません。
食事から摂る以外にビタミンDは日光を浴びることでも生成されるため、「紫外線でシミが増えないか心配…」という人もあまり過度に家にこもらず、意識的に外に出るようにしましょう。
日光を浴びる時間帯は「午前中」、できれば朝起きてなるべくすぐであることが大切です。
ちない負荷の軽い運動を行う
運動には脳内の神経伝達物質のバランスを整える効果があり、セロトニンの分泌を増加させます。
ただし疲れすぎるとセロトニンが減ってしまうので、負荷が軽めで継続できる運動にしましょう。
オススメは以下の有酸素運動です。
- ウォーキング
- ジョギング
- 水泳
- ヨガ
- ストレッチ
特に外に出て行うウォーキングやジョギングは、日光を浴びられるというメリットもあり、より効率よくセロトニンバランスを整えられます。
軽い運動は気分の安定やストレス解消にも役立つため、メンタルヘルスにも効果的ですよ。
断酒と並行して運動習慣を取り入れれば、体も心も強くなっていくのが実感できるでしょう。
断酒とセロトニンに関するQ&A
ここからは、断酒とセロトニンに関する疑問にQ&A形式でお答えします。
- Q.酒をやめると気分がポジティブになれるのはなぜ?
- Q.アルコールを飲むとセロトニンは減少するの?
- Q.禁酒して脳が回復するまでの期間は?
- Q.「お酒をやめると人生が変わる」と言われるのはどうして?
- Q.断酒してから出てくる好転反応って何?
今回の記事のおさらいにもなりますので、興味の湧いた質問にはぜひ目を通してみてくださいね。
Q.酒をやめると気分がポジティブになれるのはなぜ?
アルコールには脳内のセロトニンバランスを乱す作用があります。
断酒することで乱れていたバランスが徐々に回復し、その結果気分がポジティブになるというわけです。
また、セロトニン以外にも断酒によって気分が前向きになる要因はあります。
- 睡眠の質が向上するから
- ストレスへの耐性が上がるから
- 脳のダメージが回復するから
気分がポジティブになるまでの期間には、もちろん個人差があります。
海外で行われる断酒キャンペーン「ドライ・ジャニュアリー」に参加した人を対象に行われた調査では、1ヶ月間のキャンペーンが終わるまでに多くの人が気分の改善を実感したとのこと。
「なんだか気分が落ち込みがちで、ついつい飲酒に走ってしまう」という人は、思い切って断酒してみるのもよいかもしれませんね。
Q.アルコールを飲むとセロトニンは減少するの?
短期的に見ればアルコールはセロトニンの分泌を増加させるため、アルコールとセロトニンの関係を勘違いしている人も多いのではないでしょうか。
実際には、慢性的な飲酒でセロトニンは減少していきます。
そして断酒すれば、脳内のセロトニンバランスが徐々に回復していくことも研究で明らかになっています。
セロトニンの低下はうつ症状や不安障害などのリスクにもつながるため、メンタルヘルスを改善させたい人は禁酒した方がよいでしょう。
Q.禁酒して脳が回復するまでの期間は?
脳がアルコールのダメージから回復するための期間は、数ヶ月から数年だとされています。
スタンフォード大学が行った研究によると、アルコールによって脳が損傷している依存症の患者が禁酒した場合、7.3ヶ月後にダメージからの顕著な回復が見られたということです。
ただしこれには個人差が大きく、それまでの飲酒期間や量、心身の健康状態などが影響してくるため、一概には言えません。
また、断酒による脳の回復にも段階があります。以下に挙げた効果は、比較的短期間のうちに現れるでしょう。
- 睡眠の質の改善
- 情緒の安定
逆に、効果を見込むために長期的なスパンが必要なものは、以下の例が挙げられます。
- 認知機能の向上
- 記憶力の改善
- 大脳皮質の厚みの回復
脳をダメージから守りたいのであれば、まずはアルコールが脳を損傷させるという事実に目を向けましょう。
継続的な断酒と健康的な生活習慣を実践すれば、脳のダメージも次第に回復してくるはずですよ。
Q.「お酒をやめると人生が変わる」と言われるのはどうして?
そもそもアルコールの摂取は、少なからず心身の健康を害する行為です。
「酒は百薬の長」という言葉があり、「お酒は適量であれば健康によい」と理解している人も多いですが、近年の研究では「リスクが最小の飲酒量は『ゼロ』である」と明らかになりました。
そのため日常的にアルコールを摂取していた人が断酒すると、アルコール由来の健康上のリスクがなくなるため、生活の質が上がります。
身体的には、以下のような効果が見込めるでしょう。
- 肝臓など内臓機能が回復する
- 睡眠の質が上がる
- 体重が減少する
また、メンタル面にも注目すべきです。
- ストレス耐性がつく
- 自己肯定感が上がる
- 思考がクリアになる
心身に与える断酒のメリットがさまざまな形で影響し、生活全体を見直す契機となるため、「お酒をやめると人生が変わる」と言われるのでしょう。
Q.断酒してから出てくる好転反応って何?
好転反応とは、それまで依存していた食べ物や物質(例:酒やタバコなど)をやめた際に、体に一時的に現れる不快な症状のことです。
どのくらいの期間続くのかは人によりますが、だいたい数日から長くても数週間とされています。
好転反応の症状としては、以下のものが代表的な例でしょう。
- 不眠や寝つきの悪さ
- イライラなど気分の変動
- 疲労感やだるさ
- 頭痛
- 発汗や動悸
- 食欲の変化
もしつらい症状が出てきた場合、断酒をやめたくなるかもしれません。
しかし、体が健康になるまでの大切なプロセスと考えて乗り越えれば、心身ともに生まれ変わった自分に出会えるはずですよ。
まとめ
今回は断酒によってセロトニン分泌が増えるメカニズムと、セロトニンがそもそもどういった性質を持つのか、効率のよいセロトニンバランスの整え方に至るまでをお伝えしました。
長年お酒をたしなんできた方にとって、断酒はなかなか難しいかもしれません。しかしセロトニンの分泌量を増やす以外にも、断酒すればさまざまなメリットが期待できます。
また心身ともに健康的な生活を送るためには、セロトニンをはじめとした「幸せホルモン」とうまく付き合っていくことは不可欠でしょう。
この記事が、あなたにとっての理想的なライフスタイルを実現する一助になれば幸いです。
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